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18年ぶりの公開!世界遺産・元離宮二条城本丸御殿。その保存修理にかける思いとは?

1603(慶長8)年、江戸幕府を開いた徳川家康が、天皇の住む京都御所の守護と、将軍上洛の際の宿泊所とするため築城した二条城。ユネスコ世界遺産登録から30年の節目の今年、本丸御殿が7年間の保存修理を終えて、実に18年ぶりの一般公開が始まります(令和6年9月から)。今回は、保存修理のウラガワや建物の見どころなどをご紹介します。


皇室とゆかりの深い本丸御殿

現在の本丸御殿は、1884(明治17)年に二条城が皇室の離宮となった後、明治天皇の命によって、京都御所の北側にあった桂宮家(かつらのみやけ)の御殿の主要部を移築したもの。「玄関」「御書院」「御常御殿」「台所及び雁之間」の4棟から成ります。大正天皇や昭和天皇も皇太子の時に、たびたび滞在された歴史も。江戸時代の宮家の暮らしを伝える数少ない建物として重要文化財(建造物)に指定されています。

本丸御殿

貴重な文化財の修理にかけた思い

今回の保存修理を担当した元離宮二条城事務所の文化財保護技師、松村さんと岡村さんにお話を伺いました。

(左)松村さん (右)岡村さん

■保存修理の概要

(松村さん)平成7年の阪神淡路大震災で生じた建物の歪みを修正し、耐震補強をすることが主な目的です。また、室内を彩る障壁画の修理やクリーニングなど、経年劣化への対応も行いました。

■建物の耐震補強

(松村さん)文化財建造物の構造はさまざまで、耐震化に“定石”はありません。文化庁の文化財建造物構造実験データ集など、過去の事例を参考にしながら慎重に設計しました。

-その中で、特に苦労したところはどこですか?
(松村さん)本来の空間や価値を守りながら、耐震性を持たせる。そのバランスが大切です。調査をすすめると、玄関棟では、本来あるべき場所の「柱」が省かれ、建物の歪みの要因のひとつになっていることが判りました。そんな建物ですから、単純に耐震性を持たせると、内部が補強材だらけになってしまう。本来の空間や価値を台無しにしないための工夫が必要でした。

本来の空間や価値と耐震性を両立

-どのように解決したのですか?
(松村さん)まず、補強用の鉄骨柱をバランスよく設置することで、内部の補強材の数を極限まで減らしました。その上で、やむを得ず見えてしまう補強材は意匠を工夫し、観覧の邪魔にならないように配慮しました。

内から見えない場所に補強材を設置

(松村さん)こちらを見てください。一見すると木の扉(舞良戸)に見えますが、実は構造用合板を使った補強材です。

(奥)本来の扉 (手前)補強材

--「え?これが?近くで見ても全然分かりませんね!」

■傷んだ障壁画の修理

(岡村さん)移築後初めて全237面の障壁画をすべて壁や襖から外して、劣化の進行を抑える修理を行いました。障壁画の状態をみると、虫食いや退色など劣化は進んでいました。修理では、障壁画が描かれている「本紙」の裏面で紙を補強している古い「裏打ち紙(うらうちがみ)」を1枚1枚剥がして、新しく張り替えました。特に大きい画面となる床の間の障壁画の修理で、職人さんがずらりと並んで作業されている風景は圧巻でしたよ。

張り替え作業の様子

-237面すべてですか?大変な作業ですね。
(岡村さん)概ね5年かかりました。障壁画の裏打ち紙は糊付けされていて、傷つけないよう手で丁寧に剥がしていきますが、古い裏打紙が残ると痛みにつながるので取り切らなければなりません。京都は、経験豊富な表具屋さんが多いので、こうした大規模な修理にきめ細やかに対応できたのは本当に助かりました。寺社や町家などでの仕事を通じて育まれてきた京都の高い技術力のなせる業ですね。

裏打ち紙を剥がしていく作業

-何か発見はありましたか?
(岡村さん)障壁画の下張り紙(絵が張られる下地を補強するための紙)に、「桂宮」の名を記した文書が再利用されていました。文書の年号から、移築前の桂宮家の時代のものだと考えています。また、こうした墨を含んだ古紙には虫害に強いとも言われており、先人の知恵を垣間見ました。

本丸御殿の見どころをご紹介!

数々の美しい障壁画は本丸御殿の大きな魅力ですが、そのほかの注目ポイントも教えてもらいました。

(松村さん)本丸御殿は書院造という住宅の建築様式です。中でも、宮家が使用していたもので、江戸時代から近代までの宮廷文化を伝える貴重な遺構です。二条城には武家が使用していた書院造建築である二之丸御殿(国宝)もありますので、2つの文化の対比が楽しめます。

玄関

(岡村さん)この建物の主人が客と対面する御書院棟に入ると、壁にはキラキラと輝く「唐紙」が現れます。これは、今回の保存修復で刷り直したもので、銀粉で縁起の良い「七宝柄」をあしらうことで、光を反射し輝いて見えます。このほか鶴や雲など、各所に様々な文様の唐紙があります。

唐紙(七宝柄)の制作

(松村さん)畳にも注目してください。廊下が畳敷になっており、この畳の縁(ヘリ)には、赤い絹が使われています。通常は綿や麻が使われますが、衣装を滑りやすくする工夫と考えられます。

細かい所にも宮家の生活文化が感じられる

(松村さん)実は御書院棟中書院の三の間は、畳の下の床板が仕上げてあり、畳を取り外すと能舞台に変身します。

天井の形も、ここだけ能舞台仕様

(松村さん)御書院棟小書院の欄間は「卍崩し」(まんじくずし)形式になっており、よく似たものが桂宮家の別荘であった桂離宮にあります。江戸時代初期に建てられた傑作の意匠を、江戸時代末期にサンプリングしたというのは興味深いことです。

「卍崩し」の欄間。すごく「モダン」です!

本丸御殿の保存修理を終えて

(岡村さん)このような文化財建造物の保存修理に携われることは、失敗のできない緊張と共に大きなやりがいがあります。「終わったー」という実感はあまりありません(笑)。28棟もの重要文化財(建造物)をはじめ、数々の文化財を伝える二条城の保存修理に“終わり”はなく、もう次の保存修理事業が始まっています。

(松村さん)平成23年度から行っている「世界遺産・二条城本格修理事業」は約20年以上の歳月をかけて取り組む予定です。これまで唐門、築地、東大手門、番所、本丸御殿と事業を重ねる中で、文化財保護技師のみならず職員全員のノウハウやチーム力が高まっているのを感じています。これからもこの素晴らしい文化遺産を後世に伝えられるよう力を尽くしていきます。

ついに一般公開へ

保存修理を終えて、新たな時を刻み始めた本丸御殿。
9月1日から一般公開が始まります。
少人数でゆっくりと観覧していただけるよう事前予約制です。
京都市民の皆さんには、この一般公開に先駆けて内覧会を開催!
この機会にぜひ、二条城にお越しください。


京都市民対象の内覧会(事前応募・多数抽選)

(開催期間)令和6年8月8日(木)~22日(木)15日間
(開催時間)各日9:30~15:30 ※1時間毎に枠を設定
(申込期間)令和6年6月18日(火)~7月8日(月)
(申込方法)二条城ホームページ(以下の申込フォーム)から
(料  金)入城料と二之丸御殿とともに、無料!


一般公開(少人数・事前予約制)

(公開開始)令和6年9月1日(日)~
(観覧方法)二条城のホームページから
      事前予約・時間指定のWEBチケットを購入
(申込開始)令和6年8月2日(金)~
(観覧料金)一般1,000円、中高生300円、小学生200円
      ※別途、入城料(800円)が必要

文化財の宝庫「元離宮二条城」をオススメ

江戸時代を通して様々な歴史の舞台となった二条城。大政奉還の後も、天皇が二条離宮とすることで再び重要な役割を果たしました。
国内の城郭に現存する唯一の御殿群である二之丸御殿(国宝)には狩野派による絢爛豪華な障壁画(重要文化財)や精巧な欄間・飾金具などの名工の技を見ることが出来ます。さらに、小堀遠州の代表作である二之丸庭園(特別名勝)、東南隅櫓唐門(重要文化財)など、数多くの貴重な文化財を今に伝えています。

文化財は、守る人、支える人があって後世に生き続けていきます。このかけがえのない日本、そして世界の宝を、これからも大切にしていきたいですね。

重要文化財の唐門

📝ヒロ(市長公室広報担当)
広報担当2年目の職員。私は夏の暑さが苦手です。予報で30℃超えと聞くだけで脳が蒸発しそうです。夏が来る、あぁ夏が来る…。今月は「環境月間」だとか。これ以上暑くなるのはごめんです。地球にやさしく生きましょう。

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