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新緑の京都に現れる“不気味な森”。その正体とは?

風薫る五月。木々が芽吹いた山々は、鮮やかな緑に彩られ、京都のまちも清々しい空気に包まれます。
そんな季節、市役所に市民の方からこんなお電話が…
「森が気持ち悪い」
え…何ですと?この一見結びつかない単語の組合せ。調べてみたら、京都に忍び寄るある「ピンチ」がありました。


京都と森林の切れない関係

よくよくお話を伺うと、山の緑が異常に白っぽくてすごい違和感が‥何かとんでもない異変が起こっているのでは無いか?とのご心配の声です。
確かに、京都市街の中心部から最も近い東山を見上げると、濃い緑色に交じって明るいクリーム色が広がっています。
調べてみたら、京都の森林の歴史が関係していました。

山の中に白っぽい部分が目立つ東山

約7割は森林
京都市の市域面積の約74%(60,996ha)が森林。
京都ほぼ森やん!
その広さは東京23区とほぼ同じ。全国の大都市(政令市)ではトップレベルです。嵐山、東山…京都の風景を思い浮かべてみてください。きっとそこには森林があります。

そんな京都の人々はかつて、もっともっと森林と身近に暮らしていました。建物や工芸品にする木材や、食事を用意する薪、肥料にする落ち葉や清らかな水など…豊かな森の恵みが京都の暮らしと文化を育んできました。

三条大橋(令和6年改修)欄干に京都市内産のヒノキを使用

そうして身近な森林「里山」は、人の手が常に入ることで、さまざまな樹種が育つ豊かさが守られてきたのです。アカマツ林もあって、「都松茸」と言われる松茸の名産地であったことも。

しかし、京都の森林も時代の変化とは無縁でありません。
やがて、燃料が薪から石油に代わり、里山の資源利用は大幅に減少。
京都の森林は、どんどん“自然“な状態に還っていきます。
え?よかったやん。
確かに、人の手を離れた森林が自然に移り変わるのは当然の現象です。
ただ、それだけで終わらないのです。

不気味の正体

森林は長い年月をかけてどんどん変化をしていきます。
最初はハゲ山に明るい場所を好む木(陽樹)が根付き、徐々に日陰でも育つ木(陰樹)に移り変わります。そして最後には、背の高い常緑の木が覆って変化(遷移)が終わる、極相林(クライマックスとも)と言われる状態に。
その代表的な樹木のひとつが「シイの木」です。

シイの木

京都の東山では1970年代から、松の木が害虫による伝染病で枯れてしまう「マツ枯れ」もあって、シイの木がどんどん増殖。1960年代以降の40年間でシイの森が約5倍近くにも拡大しました。そのシイの木が春一斉に開花して山をクリーム色に。
それが「不気味な森」の正体です。

背の高いシイの木が生い茂る森林では、広がった枝と葉っぱ(樹冠)が日傘のようになって、昼でも薄暗い状態になります。そうなると、地表の植物が育たず、そこを棲みかにする虫や生き物も暮らせない。生き物の多様性は失われます。そして地表がむき出しになると、大雨などで斜面の土砂が流れ落ちる危険性も高くなります。“シイしか勝たん森”は、やっぱり「不気味」なのです。

京都のピンチ

東山の麓には、皆さんも良くご存じの京都を代表する寺社や庭園がたくさんあります。東山の景観は、「借景」として日本庭園を構成する大切なもの。
私も大好きな名勝「無鄰菴」(左京区南禅寺)の庭園も、そんな東山を借景としたお庭のひとつ。
シイの木が山を独占するようになると、観光客の皆さんも楽しみにされている京都の“美”に大きな影響が出てしまうのです。

東山を借景とする名勝無鄰菴の庭園(左京区)

みんなで守る京都の森林と文化

そんな京都のピンチを救おうと立ち上がったのが「京都伝統文化の森推進協議会」。寺社、大学や研究機関、企業、地域の皆さん、国、京都市などが連携し、森林の文化的な価値を伝える講演会や、シイ林の適切な伐採などに取り組んでいます。

繁茂する常緑広葉樹(シイ等)の一部を除伐する様子
森林への理解を深める公開セミナーの様子
クラウドファンディングを活用した森林の整備も

(林業振興課からメッセージ)
京都伝統文化の森推進協議会では、京都の森が京都らしくあるための森づくりや、京都の森の価値や文化を発信する様々な取組を行っています。これらの取組は、すぐに成果が出ない地道な取組ですが、皆様に森に愛着を持っていただけるよう、そして京都の未来のために活動を継続していきます!

この協議会の活動は、個人や企業の皆さんによるご寄付で支えられています。温かいご支援をお願いいたします。

これからも、森林と

森林は、空気や水を育み、土砂災害を減らし、地球温暖化を緩和してくれたり…私たちの暮らし方が変わっても大切な存在です。
でも、人の手で育まれてきた森林(人工林・里山など)を放置すると自然に戻るどころか荒れ放題に。土砂崩れや倒木が発生したり、お腹を空かせた動物たちがまちに出たりと、一転して脅威ともなります
地元産の木材を使うなど、私たちが身近な森のために今日からできることはたくさんあります。これからも森林に関心を持ち続けていきたいですね。

📝ヒロ(市長公室広報担当)
広報担当2年目の職員。私はコロッケが大好きです。3食それで良いくらい。先日お昼の鴨川で、トンビにコロッケ奪われて、フリーズしている女性を見かけました。分かります、その絶望と悲しみ。あの者たちもコロッケが好物です。鴨川ランチは大きな樹の下で。