船に乗って明治へ!京都の先人たちの偉業を体感してみた。
滋賀県大津市(琵琶湖)から山を越え、
京都に水を届けてくれる琵琶湖疏水。
その水量は、第1疏水・第2疏水を合わせて
毎秒約23.65m3。
(2Lのペットボトル、約1万2千本分!)
京都市の水道の原水は約99%が、
この疏水から取水しています。
正に京都の生命線です。
そんな京都の暮らしを支えている琵琶湖疏水は、明治の先人たちの並々ならぬ苦労の賜物でした。
今回は、船からその歴史と魅力をリポートします!
京都の未来を切り拓いた大工事
明治維新の東京遷都で人口が激減。
都市衰退の危機に直面した京都の先人たちは、工業の近代化や舟運でまちを再興しようと、琵琶湖疏水の建設を決断します。
日本人技師による約5年に及ぶ難工事の末、
今から約130年前の1890(明治23)年に
琵琶湖疏水(第1疏水)が完成。
その水で、日本初の商業用水力発電所・蹴上発電所を動かすなど、京都の発展に大きく貢献します。
その後、疫病の流行などで水道の必要性が高まり、1912(明治45)年には水質保持のため全線トンネルの第2疏水が完成。
日本初の急速ろ過方式を採用した蹴上浄水場から、水道水の供給が始まりました。
疏水の魅力を体感!びわ湖疏水船
明治の偉業を伝える琵琶湖疏水は、
令和2年「京都と大津を繋ぐ希望の水路 琵琶湖疏水 ~舟に乗り、歩いて触れる明治のひととき」として、日本遺産に認定されました。
この偉業と魅力を船に乗って体感できるのが「びわ湖疏水船」です。
1951(昭和26)年に途絶えた舟運が、
2018(平成30)年、観光船として67年ぶりに復活。
更に、2024(令和6)年、ついに大津港までの延伸が実現しました。
毎年、春と秋のシーズン限定で、蹴上(京都)と大津(滋賀)間を運航しています。
疏水船のルートは大きく2つ。
蹴上から大津に向けて、疏水の流れを遡るルートと、大津から疏水の流れに乗って蹴上に向かうルートです。
今回は蹴上から大津港に向かいます!
▼ 乗船
乗船前から早速見どころが。
疏水沿いに建つ「旧御所水道ポンプ室」です。
この建物には、第1疏水から貯水池に水を汲み上げるためのポンプがあり、京都御所の防火用水の役割を果たしていたのだそうです。
レンガ造りの重厚な建物は、京都国立博物館などを設計した片山東熊と山本直三郎によるもの。
2020(令和2)年4月に国の登録有形文化財にも登録されています。
「ポンプ室」というには豪華ですね。
ガイドさんから見どころなどの説明を受けて乗船。
大津に向けて遡上するルートは
「アトラクションですよ!」
そんな案内にワクワク感が高まります。
▼大津港に向けて出発!
ライフジャケットを装着して、準備OK。
出発!
船はグングン加速して風を切って進みます。
背中をグイっと押される感覚
狭い水路で流れに逆らうため、速度が必要なんだとか。
すごい迫力です!
トンネルはワープゾーン?
出発直後、出入口がギリシャの神殿を思わせる第3トンネルに突入します。
トンネル内に入ると空気はヒンヤリ。
間近に迫りくる壁と、水をかき分けて進む音で、スピード感をより感じます。
まさにアトラクション。
第1トンネルを抜けると、日本最初期の鉄筋コンクリート橋「日ノ岡第11号橋」をくぐるり、レンガ造りで馬蹄形の出入口が特徴の第2トンネルへ。
トンネルを抜けると、そこは山科。
深い緑のトンネルが出迎えてくれます。
何だかちょっとワープした感覚です。
疏水沿いには散策路が整備されていて、道行く人たちがにこやかに手を振ってくれます。こうした交流も楽しいですね。
かつて夏になると、子どもたちがプールとして使っていた場所も。
流されたりしなかったんだろうか…
すごく泳ぎが鍛えられそうです。
▼最長の第1トンネルへ
国鉄(JR)湖西線の工事で新たに造られた「諸羽トンネル」を抜けると、四ノ宮の船溜に。
昔は荷物の積み下ろしや、船頭さんの休憩場所にもなっていたのだそうです。今は「びわ湖疏水船」の乗下船場の一つにもなっています。
そして、琵琶湖疏水最長の第1トンネルへ。
出口は、簡素で堅牢なイメージ。
山縣有朋公の揮ごうによる「扁額」が際立ちます。
このトンネルの長さはなんと、2,436m!
電車で抜けても結構時間がかかる長等山を貫いています。
向こう側の出口はほぼ見えません。
暗闇にちょっとドキドキします。
いざ!トンネルへ!
船は吸い込まれるようにトンネルへと突入します。
第1トンネルは、日本初の“竪坑方式”で造られたトンネル。
トンネルの両側だけでなく、山の上からも縦穴を掘って、そこから土などを外に出しながら掘り進めていったそうです。
当時は日本最長のトンネル。
重機が無い時代に掘られた工事は難航を極め、約3年5か月もかかったそうです。
途中、トンネルの上から水がボトボト…
そこが竪坑。
壁から湧き出た地下水がトンネル内に落ちているのだそうです。
でも船には屋根があるから大丈夫!
落ちてくる水を、船は全速力でくぐり抜けます。
洞窟探検みたいです。
▼ 琵琶湖の広さを体感
トンネルを抜けたら琵琶湖に向けて、パッと空が開けます。
最後に向かったのが「大津閘門」。
これは、琵琶湖と疏水の水位を調整するためのもの。
分厚い鉄の扉が閉じられると、小窓が開いて、水がドンドン入ってきます。
ジワリジワリと船が上がっていくのを感じます。
意外と揺れない。
なかなか体験できない感覚です。
そして、目の前の鉄扉が開いたら、
MotherLake 琵琶湖へ。
大海原に漕ぎ出たような開放感と、爽やかな風が気持ちいい。
ただ、疏水と違って波があるので、ちょっとハラハラ。
終着の大津港へ。
全ルート9.3Km、約65分の船旅は終了です。
明治にタイムスリップ!時を超えた大冒険
今回初めて「びわ湖疏水船」に乗船しました。
トンネルばっかやし、正直どうなん?
と、実はちょっと思ってました。
でも、そのトンネルこそが面白い!
船にエンジンが無かった時代、
トンネル内には、人力で船を進めるために使ったロープなどが残っていて、当時の人々の息吹を感じます。
そして、各トンネルの出入口に掲げられた扁額。
初代内閣総理大臣・伊藤博文をはじめ、山縣有朋や井上馨、三条実美など、明治のビックネームが相次いで揮ごうするなど、当時この工事にどれほどの期待が集まっていたのかが伝わってきます。
そんな国家の重責を一身に背負って、GPSも重機も無かった時代に、この長い長いトンネルを一直線に掘りつなぐ…
そんな前例の無い難工事に挑戦した先人たちのドラマに、今を生きる私たちも勇気づけられる思いです。
大津港到着後、
もう一回乗って蹴上まで戻りたい!
そんな思いで溢れるほど、充実した船旅でした。
ワクワク感たっぷり、明治へのタイムトラベル。
ぜひ、ご乗船ください!
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