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開園から120年。動物園が探し続ける生き物の「幸せ」とは?

京都市動物園は、明治36(1903)年に市民の皆さんのご寄付で開園。
昨年、開園120周年を迎えた日本で2番目に古い動物園です。
現在、109種(令和6年7月時点)もの生き物が暮らしています。

そんな京都市動物園に松井市長が訪問。
動物園の“中の人”の思いや動物の魅力、動物にとっても心地よい「動物福祉」などについて若手職員と語り合いました。


【対談した人】(左から)
山梨さん(主席研究員)
「生き物・学び・研究センター」で、動物の行動に関する研究や学校向けの教育プログラムなどを担当。今注目の「動物福祉」にも中心的に取り組む。
櫻井さん(飼育員)
小学校5年生から飼育員を目指す。動物福祉の取組にも魅力を感じ、京都市動物園に入職。ペンギン、京都の身近な生き物、イチモンジタナゴなどを担当。
新美さん(飼育員)
中学生のときにテレビで見た飼育員の姿に憧れて動物園を志す。現在はチンパンジーとヤブイヌを担当。

動物から学んだこと

新美さん|動物園に入って最初の担当はアカゲザルでした。
当時、イソコという高齢(ギネス記録)のサルがいて、動物の老いとか死を目の当たりにしました。
イソコは亡くなる3日ほど前までご飯を食べるぐらい元気で、食事の大切さを学びました。

櫻井さん|私は日本で最後の個体だったゴーラル(カモシカのような動物)を見届けました。
ガンがあって治療は難しかったのですが、亡くなる前日まで普通に食べて最後まで立っていて、生きることにまっすぐなところに感動しました。
あと動物は、先のことを考えて悩むことがないように見えるというか…一生懸命、今を生きている凄さも日々動物から学んでいます。

動物の幸せとは?


市長京都市動物園は2020年に「動物福祉の指針」を作って、全国に先駆けて「動物福祉」に取り組んでいますよね?

山梨さん|動物福祉は、身体はもとより動物の心の健康も大切にしていくということです。動物本来の特性を発揮できるような環境で暮らさないと、心の健康は保てないことが分かっています。

ただ、私たち人間とは違う生き物なので、人間とは感覚が違うことがよくあります。だからこそ、客観的に評価して実践につなげていくということに取り組んでいます。

動物福祉の指針は、今よりもちょっといいところを目指していこうというスタンスで策定しました。その中のひとつとして、毎年いくつかのエリアや種を重点的に考えるということを繰り返しています。

新美さん|動物園で一番古い施設がサル島です。87年前にできたものですが、京都の夏はとても暑いし、冬はとても寒さが厳しいので、サルたちにとっても過酷な環境です。

夏だとグデッとして、冬は「サル団子」って言うのですが、お互いに身を寄せ合って寒さを乗り切るような感じで暮らしていました。

それをどうにかしたいと思い、最初は夏の直射日光や冬の冷たい風を遮る工夫もしたのですが、やっぱり環境が過酷ということで、チンパンジーたちがいる類人猿舎(屋内)に引っ越しました。

現在の「サル島」

市長サルに何か変化はありましたか?

新美さん|類人猿舎にはグラウンドがあり、地面も土で、木などの植栽もあります。
コンクリートしかなかったサル島の時は、「オーバーグルーミング」と言って、毛づくろいのし過ぎで体毛が剥げてしまうのが問題だったのですが、引っ越し後は改善しました。

市長サルのストレスが緩和された?

山梨さん|その可能性はあります。サルは植栽などがあることで、植物や樹皮をかじったりできますし、移動して探索する時間が伸びたりして、暇な時間が減ったこともあると思います。

新美さん|サル島の時と比べて、探索する時間が増えて、すごく動くようになりました。

園舎内で動き回るサルたち

山梨さん|その他にも、子どもたちが動物と触れ合うプログラムの改善にも取り組んでいます。

動物の種や個体によって、ストレスの感じ方がそれぞれで、過去にやっていたプログラムが、テンジクネズミにとってストレスなんじゃないか…そのことが、いろんなホルモンとか行動のデータから分かってきました

櫻井さん|「テンジクネズミのすきをMIKKE」というプログラムに取り組んでいます。動物に直接触らずに、テンジクネズミの「部屋」を参加している方に作ってもらって、ネズミたちはどこが好きだった?ということなどを実際に観察して発見してもらいます。

テンジクネズミ

市長お客さんの反応はどうですか?

櫻井さん|今までは触って「かわいい」とか、写真を撮って終わりみたいな感じが多かったんです。今では小さいお子さんも「テンジクネズミはここが好きだった」とか発見したことを発表して帰っていかれる方も多いです。

今までより内容が深くなったプログラムをご提供できている実感があります。現在、お客さんの反応を分析してプログラムの改善を検討しています。

「テンジクネズミのすきをMIKKE」の様子

サルワールドのリニューアルに向けて

市長今「サルワールド」の大幅リニューアルに向けて検討を進めていますね。

山梨さん|動物園が生き物にとってより良い空間を作っていける大きなチャンスです。

新美さん|今はチンパンジーのグラウンドが青天井なので、運動能力の高いチンパンジーが外に出てしまう懸念がありロープとかを張れません。
リニューアル後は、天井を付けることで、三次元空間を移動するチンパンジーの習性が最大限生かせるようになるのも期待しています。

新類人猿舎(完成予想図)

市長これから研究員、飼育員として取り組みたいことは?

新美さん|サルワールドの整備に向けて、チンパンジーたちのストレスをいかに少なくして引っ越しを成功させるかなど考えていきたいです。

櫻井さん|私は絶滅が危惧されている「イチモンジタナゴ」の種の保存にも取り組んでいます。

イチモンジタナゴ

櫻井さん|元々の生息地である琵琶湖では、確認が難しいほど個体数が減っていますが、琵琶湖疏水で平安神宮の池に流れ着いて定着した個体を譲り受けて繁殖を行っています。この魚について多くの方に知ってもらいたいです。

イチモンジタナゴの養殖水槽

山梨さん|何を考えているのか全く分からない動物もたくさんいます。タナゴの福祉ってどうやって考えていくんだろうとか、カメとかヘビとか今まで以上にもっといろんな動物について調べていきたい。
そして、飼育担当者の皆さんと協力して、動物の福祉をもっと良くしていきたいと思っています。

みんなでつくる生き物の幸せな未来。

市長京都市動物園ではサルワールドの改修に向けて、市の予算とは別にクラウドファンディングにも挑戦しています。

山梨さん|令和6年9月13日からクラウドファンディングを行っています。
チンパンジーとかテナガザル、マンドリル、ショウガラゴ、スローロリスなどが使う新しい施設の整備に活用させていただきます。
ご協力をよろしくお願いします。


市長|動物園は動物に親しむレクリエーションの機能もありますが、種の保存環境保全の拠点であり、また動物種の研究やその成果を広げる教育機関としての役割など、様々な大切な機能があります。

京都市動物園の取組は、これからの動物園のあり方を考える上で、日本の先行事例です。

ゴリラの「ゲンタロウ」も松井市長と対談?

毎日のように来園されて、何時間も過ごされる方もいらっしゃるなど、地域の方々の憩いの場にもなっています。
久しく動物園に行ってないな―という方は、ぜひご来園ください。
とても気持ちのいい空間になっていますよ。

対談後の和やかな雰囲気

対談を終えて(あとがき)

私も久しぶりに動物園を訪れました。
動物の数が減ったかなと思ったら、それは動物が快適であるための取組でした。

動物園で生き物に接してみたら、私たちも同じ「生き物」であることに気づかされます。そりゃ、みんな幸せに生きたいですよね。
動物にとっても人間にとっても居心地のよい動物園を目指して。
これからも挑戦は続きます

*この対談は動画(Youtube)でも配信しています。

気持ち良さそう

📝ヒロ(市長公室広報担当)
広報担当2年目の職員。南極にいるイメージのペンギンたち。京都の夏は大丈夫?と思いきや、ここにいるのは「フンボルトペンギン」。温帯に生息しているから比較的暑さには強いのだとか。知らないことって多いですね。でも昨今の夏はきついでしょう。水の中で涼んでね。でも、ヌルいかも…

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