京都にフランス共和国?アートが結ぶ深い絆とは。
今年の夏に開催された「パリ2024オリンピック・パラリンピック」。
選手の熱戦はもとより、さすがフランス!と思わせる、セーヌ川を舞台にした開会式の芸術的な演出が強く印象に残っています。
実は、そんなフランス共和国と京都は深い深いご縁があります。
関西日仏学館へ
京都市左京区、京都大学のすぐ近く。
東大路通に面した白壁のステキな建物が、関西におけるフランス文化の拠点「関西日仏学館」です。
フランス政府(外務省)の公式機関として、フランス語教室の開催や日本とフランスの文化交流に関わる事業を行っておられます。
関西日仏学館広報担当の長谷川さと子さんに、館内をご案内いただきました。
建物に入ると、パリで活躍した藤田嗣治画伯の大作「ノルマンディーの春」が出迎えます。
描かれた女性の凛とした表情にすっかり見とれてしまいました。
1階にはカフェがあり、開館中はどなたでも利用できます。
2階にはライブラリー。
フランスの書籍にも親しめます。
この日はフランス語講座が開催されていて、生徒さんが熱心にレッスンを受けておられました。
館内は、壁の色づかいをはじめオシャレな雰囲気に溢れていて、もうここはフランス共和国。
日本にいることを忘れそうです。
「平和の小島として灯を・・・」
「関西日仏学館」は1927(昭和2)年、山科区の九条山に日本初のフランス政府に属するフランス語学校として誕生します。
その実現には、大阪商工会議所会頭も務めた実業家・稲畑勝太郎氏が大きな役割を果たされました。
その後1936(昭和11)年5月に、より便利な現在の場所に移転。
やがて、第二次世界大戦の苦難の時代を迎えます。
長谷川さん|1940年にフランスがドイツに降伏。隣接していた「独逸文化研究所」とも緊張関係にあったようです。
さらに「敵国」とされたフランスは、日本の“特高警察”からも目を付けられ、関西日仏学館の職員も逮捕され拷問を受けるなど、厳しい弾圧にも遭います。
そんな中でもここでは、フランス文化を紹介する講演会や演奏会、展覧会を続けるなど、文化と活動を守り抜きました。
戦争末期、現在の関西日仏学館の建物は軍需工場として接収され、立ち退きを余儀なくされます。
館内にあった大量の蔵書や調度品などは、元あった九条山の旧館へと移転。今でも登るのが大変な九条山の急坂を、荷車ひとつでそれらを運び上げたというので驚きです。当時の苦労がしのばれます。
フランスの方々の文化や芸術を大切にする強い精神が伝わってきました。
フランス・パリの息吹を京都に
そんなフランスの息吹を、京都にいながら体感できるイベント。
それが「ニュイ・ブランシュKYOTO」です。
「ニュイ・ブランシュ(Nuit Blanche)」とは、「徹夜をする」という意味。日本では「白夜祭」とも。
毎年6月(2022年までは10月)の第1土曜日の夜から翌日曜日の朝にかけて、パリ市で開催される現代アートの祭典です。
一晩中、美酒を片手にアートを楽しむ。
めちゃくちゃステキなコンセプトですね!
地下鉄も終夜運転されるなど、パリがアートに包まれるのだそうです。
ニュイ・ブランシュKYOTOとは?
京都市は1958(昭和33)年に、芸術の都「パリ市」と「京都・パリ友情盟約」を締結。姉妹都市として絆を深めてきました。
2011年から、この姉妹都市パリで開催される現代アートの祭典をモデルに「ニュイブランシュKYOTO」を開催。
今年も9月28日から市内31会場で開催されます。
今回、この事業を担当されている
関西日仏学館文化部長のジュリエット・シュヴァリエさんと、
ニュイ・ブランシュKYOTOプロデューサー/コーディネーターのカルドネル佐枝さんにお話を伺いました。
―今年のテーマ「Transmission(継承)」について
ジュリエットさん|フランスでは1994年に、日本の「人間国宝(重要無形文化財保持者)」の制度に倣って、「メートル・ダール」という制度が創設されました。
今年はその30周年に当たり、「メートル・ダール」保持者による作品展示やシンポジウムも開催します。
日本でも伝統産業の後継者(担い手)不足は深刻な問題。フランスにおいても同じ課題を抱えているそうです。
現在、関西日仏学館の創立の地(九条山)には、フランスのアーティストなどが滞在して調査や作品制作を行うアーティスト・イン・レジデンス「ヴィラ九条山」があります。
そこでは2014年から、工芸職人が日本の文化や伝統産業の技に触れて、新たな創作につなげるプログラムにも取り組まれてきました。
ジュリエットさん|工芸品は完成するまでに時間がかかります。材料や職人の技術を育てるにも時間がかかる。そんな作品を手にするまでの「時間」に心を惹かれます。
そんな職人の手仕事が現代アートと出会ってより魅力や価値が高まる。作品を通じて若い方々を惹きつけたいと考えています。
―フランスの職人の方が日本で滞在制作をする効果とは?
ジュリエットさん|フランスでは職人とアーティストは別のものと考える傾向が強くあります。アーティストが構想したものを職人が制作する。一方、日本ではそこが同じかあいまい。
職人もアーティストだし、アーティストも自分で制作する。そんな文化の違いが、フランスの職人の考え方や作品に大きな影響を与えるのです。
カルドネル佐枝さん|フランスの芸術家を日本の木材の加工場に連れて行ったら、薄削りした木くずに感動したりするんです。木材屋さんからしたら捨てる「削りカス」だけど、芸術家から見たら「アート」。
そんな思わぬ気づきや価値が生まれる瞬間があります。
―フランスではアーティストへの支援が手厚いですね。
カルドネル佐枝さん|フランスでアーティストは、「新しい方向に導く人」。社会に気づきや変革をもたらす存在として大切にされています。そして、表現の多様性など芸術はしっかりと守られています。日本でも、もっともっと芸術家の支援や制作発表の場が充実して欲しいです。
文化の摩擦熱
今回の取材を通じて、フランスの文化芸術に対する考え方の一端に触れることができました。
異なる視点や価値観が交流することで生じる「摩擦熱」が、新しい文化や芸術を生み出す。
関西日仏学館やヴィラ九条山は、文化発信の拠点であり、フランスと京都(日本)双方の文化が磨き合う場所だったんですね。
京都にとっても無くてはならない存在だと強く感じました。
ニュイ・ブランシュKYOTOに行こう!
「ニュイ・ブランシュKYOTO2024」は、日本とフランスのアーティストによる現代アートや工芸の作品展示、京都芸大の学生さんによる演奏会など、楽しみ方はいろいろ。
京都駅ビル、関西日仏学館、ヴィラ九条山、京都を代表する日本庭園「無鄰菴」、そしてギャラリーなど、普段は入れない場所や時間で、今ここだけの体験が目白押しです。
「眠れぬ夜」はパリを感じてアートな時間を過ごしませんか?
ぜひ、ご来場ください。