初夏の京都で異世界転生?今の時代に生きる「能楽」の楽しみ方とは。
昨今、マンガ・アニメで「異世界転生もの」が大人気です。
私は魔法使いに転生したい…。
そんなある日、「京都薪能」のチラシが私の目に飛び込んできました。
真っ暗闇に浮かび上がる般若の面。こわっ!
タイトルは「光源氏の夢」。絶対うなされてる…。
源氏の君、つつがなしや…
ん?これもある意味、異世界転生もの?
現存する世界最古の舞台芸術と言われる「能楽」。
能楽とは、能と狂言の総称で、その源流は8世紀にもさかのぼります。
正直、難しくて分からないので近寄りがたし
そんなイメージをお持ちの方も多いと思います。
そこで伝統芸能ド素人の私が、「能楽」の世界を探ってきました。
能楽師の暮らし
今回お話を聞かせていただいたのは、能楽師の寺澤拓海さん。
お父様は観世流シテ方、お母様は大倉流小鼓方という能楽師の一家にお生まれで現在25才。
1年ほど前から、京都能楽会理事長で観世流シテ方・井上家11代目当主井上裕久さんの下で修業を重ねておられます。
本日はスーツ姿の寺澤さん。シャキッと伸びた背筋はさすがです。
あるがままの人を描く「能」の魅力
能は、歴史の英雄だけでなく、しばしば戦いや政争に敗れたある意味「負け組」が主役に。亡霊、鬼などの姿で立ち現れて、嫉妬、怒り、恨みなど、みんなが持っているけど隠したい…そんな人間の本性を赤裸々に描きます。
そんな能の「普遍性」が魅力と語る寺澤さん。
科学や技術が進化して、生活の仕方が変わっても、泣いたり怒ったり笑ったり、そんな「素の人間」って今も昔も変わらないように思います。
鬼や亡霊は、実は内なる自分の姿かも知れません。
文学や絵画など、人が生み出す様々な創作に関心を持って視野を広げていく寺澤さん。「人間の本質」を探る旅は続きます。
能はエキサイティング
実は今回、別件もあり、寺澤さんのお師匠さん(井上裕久 京都能楽会理事長)もご同席。能楽のことを気さくに教えてくださいました!
様々な役割を担う能楽師が集まって、ひとつの舞台を作り上げる能楽。
でも本番の舞台までに演者が集まる「申し合わせ(いわゆるリハーサル)」は、なんと!直前に1回程度とのこと。
それで息の合った舞台が成立するのは、重ねてこられた伝統と研鑽のなせる技でしょうか。びっくりしました。
舞台上では進行のスピードなど、演者同士でバチバチの「駆け引き」もあるとか…予定調和で静かな能のイメージがひっくりかえる、興味深いお話でした。ありがとうございました!
自分らしく能を楽しむ
最後に、能の楽しみ方を伺いました。
井上理事長からは「能は見る方が気持ちを乗せやすいよう、私たちはできるだけ無駄をそぎ落として演じます」とも。
そうだったんですね!
つまり、“正解”は見る人それぞれにあって良い。
何かと「分かりやすさ」や「正解」が求められる今。それって何だか、他人に答えを押し付けられる不自由さも感じます。
自分らしく“感じる”ことが大切なんですね。
構えていた肩の力が抜ける思いです。
もちろん能を勉強して、より深く理解するのも能の楽しみ方。
でも、ただ目の前に広がる「能の世界」に「転生」してみる。
強がったり、ええカッコしたりと着ぶくれしたものを脱ぎ去って、素直な自分に立ち戻る。そんな自由に自分を解き放つ時間を楽しむのも良いですね。
今の時代に生きる「能楽」
膨大な情報にあふれ、AIなど科学技術が急激に進化する現代。
人間を超越するような技術の進化に、一抹の不安を覚えたりもします。
ぐるぐる目が回りそうな速さで変化する今の時代だからこそ、能楽は私たちに、忘れてはいけない大切なものを伝えてくれている気がしました。
何百年もの間、幾多の人々の手で守り継がれてきた能楽。
寺澤さんのような若い担い手が、その技と心を継承しようと日々研鑽を重ねておられます。
しかし、観る人あっての伝統芸能。
私たちもこの日本の宝を、観て楽しんで後世に伝えていきたいですね。
あなたも京都で「異世界」を体感しませんか?
能楽初心者の皆さんにもオススメなのが、京都の初夏の風物詩「京都薪能」。平安神宮で能楽が鑑賞できる“特別な”舞台です。
今年は、大河ドラマにちなんだ演目で、光源氏をはじめ夕顔、六条御息所などが、あなたを「源氏物語」の世界へ誘います。
私もかつて「京都薪能」を“体験”しました。
宵の空を赤く照らすかがり火に、幽玄の世界が立ち現れる「異世界」体験。常世から何かが“降りてくる”感覚にゾクゾクしますよ。
初めて能楽を目にする方であっても、雰囲気だけでも楽しめます。
「薪能」の魅力を更に楽しめる「公開講座」も同日開催。
ぜひご来場ください。