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京都の交差点に現れた日本庭園。匠の技が込められた「雨庭」のヒミツ

近年全国的に、短時間で道路が水に浸かってしまうような極端な大雨が増加しています。

そんな雨による被害を軽減しようとする知恵のひとつが「雨庭」です。

雨庭は石材と植物、知恵と工夫による庭園。
雨水を一時的に貯める効果が期待され、相国寺の枯山水など、その機能の研究が進んでいます。

京都市では浸水対策の一環として、雨庭の整備を進めています。
そこには、人々を惹きつけるヒミツが隠されていました。


命と暮らしを守る伝統の知恵

今回は、雨庭の施工をされた植彌加藤造園うえやかとうぞうえんの伊藤さんと山田さんにお話を伺いました。

同社は、南禅寺の御用達として1848年に創業。
伝統的な庭園から都市緑化まで、庭づくりの技と都市緑化をはぐくむ老舗です。

(左)知財企画担当の山田さん(右)施工管理担当の伊藤さん

伊藤さん:私にとって雨庭は大きなチャレンジでした。
普段関わらせていただいている民間の庭園とは異なり、交差点は人通りと交通量も多く、石材の配置には見通しなどを考慮する必要がありました。

道路整備が進んだから伝統の雨庭が必要に

山田さん:昔は未舗装になっている場所が多かったので、雨水は自然と地中に染み込んでいました。

でも今は道路がアスファルトで覆われていますよね。
そうすると大雨の時などは、水が一気に排水溝に流れ込んで、氾濫につながってしまう場合があります。

雨庭は、地面を60センチほど掘り下げて、石を敷き詰めます(州浜すはま)。
雨が降ると、石と石の間に水が一時的に溜まり、少しずつ地中に染み込んでいく。そのことで氾濫を防ぐとともに、地下水を豊かにすることにもつながります。

雨庭のイメージ
「州浜」で貯めた水をゆっくりと地中に浸透させる

防災減災機能を持つ雨庭。
そこに息づくのは、京都ならではの造園技術です。

伊藤さん:百万遍、四条大宮、外環三条の3箇所の雨庭はそれぞれ意匠が異なります。

百万遍の交差点では、「加茂七石かもしちせき」という石をふんだんに取り入れました。

加茂七石は、京都市左京区・北区を中心とした鴨川・高野川流域で採取される7種類の石材です。
種類ごとに見た目や手ざわりなどの石質が大きく異なり、庭園における景石(鑑賞石)として珍重されています。
そんな加茂七石が揃っている公共緑地はなかなか無いと思います。
それぞれの石の特徴にも注目してご覧いただきたいですね。

加茂七石(百万遍南東角)

伊藤さん:四条大宮は駅前で、たくさんの方々が行き交う場所です。そのため、中央にスツール(石の椅子)を置いて、それを取り囲むように州浜や景石、低木、地被植物(芝やツル植物など地表面に生える植物)を配置しました。

市松模様に配置した石と地被植物は、雨の後にキラキラと輝いて、さらに美しく見えるのでお気に入りです。

市松模様の可愛い庭園(四条大宮交差点南西角 )

伊藤さん:また、景石では、亀井という石材で、鶴亀を表現しています。「どれが鶴亀かな?」と、ぜひ眺めてみてください。

亀石(四条大宮交差点北側 )

伝統の心意気で、地域に寄り添う庭づくりを

山田さん:日本庭園には、自然物を象徴的に表現する「見立て」という手法があります。その土地の風土や歴史を読み解き、それを表現していく。これは日本庭園の本質とも言える考え方です。今回の雨庭でも、その精神を大切にしました。

石や植物などを使って自然風景を再現する「見立て」

伊藤さん:例えば外環三条の交差点では、通り沿いのハナミズキを地域の方々が長年大切に育ててこられました。

雨庭も、地域を形作る“景観”のひとつとなります。
これまで大切にされてきた景観との調和を大切に、地域の方々との調整にも丁寧に時間をかけました。

ハナミズキとの調和を重要視(外環三条)

ー皆さんが丹精込めて作られた雨庭。多くに方々に楽しんでいただきたいですね。

伊藤さん:雨庭が、ふと立ち止まり、季節の移ろいを感じながら、一息ついていただける場所になればと思います。

また、観光客の皆さんにも気軽に、京都を感じていただくことができます。

防災減災機能を持つ雨庭が、市民や観光客にとって憩いの場になるなんて素敵ですよね。

宿泊税で、美しく京都を守る

この雨庭の整備にも「宿泊税」が活用されています。

京都市では、2017年に四条堀川交差点で整備して以降、現在までに市内14箇所で雨庭を整備してきました。雨庭は、自然の持つ力を活用して、地域の魅力や防災・減災などにつなげる「グリーンインフラ」のひとつとして注目されています。

今回ご紹介した雨庭は、雨水対策をはじめ、京都らしい美しい景観や緑化、さらには、ヒートアイランド現象の緩和などの効果も期待されています。

実際の雨庭の前では、観光客が写真を撮る姿や、ベンチに腰掛けて談笑する地域の方々の姿を見かけます。
すっかり京都の日常に溶け込んで、「名所」のひとつともなっています。

京都市ではこれからも、「宿泊税」を活用して、市民にも観光客にも過ごしやすいまちづくりを進めていきます。


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