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道ばたの草花にも命をみつめる。

今、京都市では、2050年までのまちづくりの方針「長期ビジョン」の策定を進めています。

京都のまちは未来に向けて何を守り、何をつないでいくのか。

今回は、華道家で写真家の池坊専宗せんしゅうさんに、現代におけるいけばなの役割や、京都のまちの魅力や課題などについてお話を伺いました。

《プロフィール》
華道家元池坊 次期家元池坊専好の長男として京都に生まれる。慶應大学理工学部入学後、東京大学法学部へ。東京大学卒業時には成績優秀として「卓越」受賞。名もなき花を生け、日常の一瞬を写真として描く。講座や文筆、インスタレーションなど様々なかたちで日常の美しさと交わることを伝え続けている。京都市の「長期ビジョン」に若手の視点で提案を行う「未来共創チーム会議」のメンバーとしても活躍中。


いけばなの家に生まれて

池坊さん:幼稚園ぐらいから楽しむ感じでお花のお稽古が始まりました。
でも、中学のころは鴨川での草野球に没頭しすぎてお稽古をすっぽかしたこともあります(笑)
その時々に好きなことをやりなさいという感じで、周りも温かい目で見守ってくださったので、後にすっといけばなの世界に戻れたんだと思います。

数学から法律へ

池坊さん:大学では最初に数学を、次に法学を勉強しました。
一人で勉強するのが好きで、山中にこもるような「数学者」のイメージに憧れていました。でも実際には、レンガをひとつずつ積み上げるような学問で、大学に入ってすぐ自分にはそこまでの情熱がないと気づきました。

法律は人々の暮らしや社会が背景にあって、人と人との関係性や社会のあり方を考えさせられる学問でした。人に興味があったことが、法律と相性が良かったのだと思います。

再び、いけばなに向き合う

池坊さん:大学時代に“おじいちゃん先生”と出会えたことが大きかったです。その先生は人情味あふれる方で、植物の命を見つめ、一本の枝、一枚の葉を生かすことに全てを注ぐような人です。

今どき、生徒に教える時は、ひとつ褒めてひとつ直すようなバランスを取るものですが、その先生はお構いなし。私が2時間かけて生けた花が1本残らずすべて直されてしまって…。こっちはガックリしますが、でも先生が生けた花は、まるで川べりに自然に生きているような美しさでした。

先生は表面的な人間関係ではなく、自分が信じることの大切さを私に伝えようとしている。その真摯な生き方に心を打たれ、いけばなの素晴らしさを改めて実感しました。20代でそんな先生に出会えたことは幸せなことです。

(花・写真)池坊専宗

花と生きる

池坊さん:ある生徒さんが、「いけばなは、花のことだけを考えて無になれる貴重な時間」とおっしゃっていました。

今、ものすごいスピードで社会や価値観が変化していますよね。
だからこそ、日常から離れて一つのことに集中したり、心を澄ませていくような時間が現代人には必要なのではないでしょうか。

いけばなでは、自然のありのままの姿を大切にします。
例えば、茎が曲がっていても、その花の頑張っている姿を感じて身近に置きたくなったり、花の一生に自身の人生を重ねたりしてしまうでしょう。
順風満帆な人生なんてありませんから、花の変化を通して人生の機微を学べるのだと思います。

花を愛でる心は万国共通

池坊さん:いけばなの魅力は、言葉の壁を越えて誰もが美しさを感じ取れるところにあると思います。

花を見て、ほっとしたり癒されたりする気持ちは万国共通ですからね。戦時下のウクライナのシェルターから、生けられた草花の写真が送られてきたこともありました。
どんなに過酷な状況でも、植物や命と触れ合うことは人間らしく豊かな日々を送るために必要なことだと気づかされます。

また、花を愛でるだけでなく、儚さや無常観といった日本の美意識を体感できるのは、いけばなならではの特徴だと言えるでしょう。

特にアジア圏の方は熱心で、中には日本人を上回るような素敵な花を生ける方もたくさんいます。そういった海外の方の熱意を見ると、恵まれた環境にある日本人こそ危機感を持つべきだと感じます。

華道家元池坊の館内に泳ぐ鯉

原点が大切

池坊さん:新しいことやわかりやすさ、見栄えではなく、目の前の植物と真剣に向き合ういけばなの本来の姿に立ち戻ることが大事だと思っています。

若い世代は、日本古来の花を好む傾向にあります。いけばなを通して日本文化に触れることが、自分や日本を見つめ直すきっかけになっているのかなと思います。

また、何年も同じテーマでお稽古を重ねていくことで、少しずつ植物の見方や技術が深まっていきます。でも、完成することはないんですよね。その終わりのない探求が、いけばなの面白さだと思います。

(花・写真)池坊専宗

いけばなで暮らしを豊かに

池坊さん:いけばなを通して自然と向き合い、四季の移ろいを感じられることも大きな魅力です。日々の暮らしの中で、植物と向き合う時間を大切にすることが肝心です。

立派な花ばかりを使う必要はありません。例えば、葉っぱだけでも素敵ないけばなは生けられるんです。私もエノコログサとか、その辺に生えている雑草も良く使います。

皆さんスマホを見ながら一心不乱に歩いてしまうときも多いと思いますが、私はキョロキョロして「この葉っぱが可愛いな」とか思いながら歩いているので、季節の移り変わりや、道端の雑草の力強さに目が留まります。

道端で写真を撮っていたら、何かあるの?って覗かれたりしますけどね。日々の暮らしの中での発見や変化を楽しめるようになります。

京都の魅力と課題

京都市の「未来共創チーム会議」のメンバーでもある池坊さんから見た、京都の魅力と課題について伺います。

東京で暮らしてみて感じる京都の魅力

池坊さん:東京は全国から人やお金が集まって、お店なんかも次々と変わっていきますし、人と人の関係も希薄です。

でも、京都は時間の流れがゆっくりで、変わらないものがあり続けるのが良いところです。鴨川が流れ、三方を山に囲まれ、人と人の関係が強くて、いろんな文化が残っている。何年経っても、鴨川の景色を見ると懐かしく思います。

京都の魅力を支えるもの

池坊さん:京都のまちを歩いていると、あちらこちらにお地蔵さんがいて、みんな綺麗にお花が手向けられています。日常的に掃除をしたり、花を供えたりする方がいらっしゃる。

何か見返りを求めているわけではないのでしょうけど、こういうことを大切に思っている人が、地域に根付いていることが、京都らしさを支えているのではないでしょうか。

隣接する六角堂の池には白鳥も

まちが痩せていく危機感

池坊さん:京都の文化の担い手が減っているという現実があります。京都は歴史的に宮中やお公家さん、武家、お寺さんなど、多くの人々が伝統文化を支えてきたまちです。

でも、京都市の伝統工芸の職人さんのところにお邪魔しながら撮影して回っているなかで、最近は「この仕事をするのは今年で最後」とか、京都ではもう作っていない、というところが出てきています。

一方で、若い人の中には、ものづくりに興味がある方もいて、受け継ぎたい方とのマッチングをしっかりしていくことが必要です。

京都が培ってきた伝統文化やものづくりの裏付けがないと、表面的なものだけになり、京都のまちが痩せていってしまうのではないかと危惧しています。

観光の恩恵を市民にも

池坊さん:あと、観光ですね。一部では、「ここは日本か?」と思うくらいグローバルに人の集まる場所になっていますよね。

もちろん観光が経済を支えている面はありますが、観光に特化したビジネスだけが恩恵を受けるのではなく、京都市民や地域の人にも還元され、皆が恩恵を少しでも受けられるような形にしていく必要があると思います。

華道家元池坊の建物1階では小鳥がさえずる

「理想京」に向けて

池坊さん:京都は人や歴史をつないでいくようなまちでなければいけないと思います。

京都を離れて数年経つと、京都が東京のようになってきたと強く感じます。京都のものをリブランディングしたものもありますが、どこか既視感があるというか…。職人のもの作りの奥深さ、良い意味での頑固さなどが京都らしさですが、それが若い世代との間で分離が進み、繋がりが希薄になっているように感じます。

昔から京都を支えてきた世代と、これから入ってくる若い世代との間を取り持ち、お互いに繋いでいくことにもっと注力していくことが大切ですね。
若い人々のイノベーションとこれまでの蓄積をつなげて活かすまちになってほしいと思います。

「未来共創チーム会議」でもご活躍

今の時代に、京都の役割

今回のインタビューを通じて、いけばなへの興味がぐっと湧きました。

落ち着いた語り口調に、池坊さんの優しいお人柄を感じながらも、根底にはいけばな本来の命を真摯に見つめる強い精神を感じました。

変化が著しい今の時代だからこそ、原点を大切に、未来につないでいくべき価値を見極めることの大切さを学びました。

私も池坊さんに倣って、スマホはポケットに、身の回りの変化に気を配りながら歩いてみたいと思います。


現在、京都市では、2050年までのまちの未来像となる「長期ビジョン」の策定に向け、特設WEBサイト「みんなの理想京 ideal Kyoto(アイディールキョウト)」を開設し、“声”を集めています。

京都市民だけではなく、京都を愛してくださるすべての方々の声をつないで京都の未来を構想してまいります。ぜひ、ご参画ください!

📝ヒロ(市長公室広報担当)
広報担当2年目の職員。部屋にお花が一輪あるだけで、パッと明るくなって心癒されます。今日はクリスマス・イブ。気持ちを込めてお花を贈ってみるのはいかがでしょうか?