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京都の宿泊税は、檜皮葺の屋根に込められた思いをつないだ

国宝の約2割が集中する京都。
寺社建築、史跡・名勝、美術工芸品など、
市や府が指定・登録するものや、十分な調査が手つかずで「文化財」に指定・登録されていないものも含めたら、もはや数えきれないほどです。

そして、文化財の修理などには多額の費用がかかり、所有者の皆さんにとって、重い負担になっています。
実はそんな文化財の保存修理などにも『宿泊税』が活用されています。


文化財の維持・継承はとっても大変!

文化財は木など天然の素材でできているため、長年の風雨や災害などで傷みやすく、定期的な修繕が欠かせません。

特殊な技術や資材が必要な文化財の修理は、費用も高額。
最近では職人の減少、茅葺かやぶきかや檜皮葺ひわだぶきひのきの樹皮など、歴史的建造物で使用される伝統的な材料が手に入りにくいなど、その負担は年々厳しさを増していて、大切な文化財が修理されないまま傷みが深刻化してしまうことも…。 

京都市では、文化財の危機を何とかしようと、観光客にご負担いただいた『宿泊税』も一部活用し、市指定の文化財の保存修理などに必要な費用を支援しています。

先人から受け継いだ檜皮葺を守り抜く

今回お伺いしたのは山科区の八幡宮さん。

『八幡宮』(はちまんぐう)

仁壽3(853)年に創建。
かつては勧修寺の鎮守社でもありました。
境内には醍醐天皇が身を清められたと伝わる『御清井』もある、歴史あるお宮です。

2023年、市の支援制度を活用し、御本殿の屋根の葺き替えを行いました。

宮司の長谷川さんに修繕の経緯や思いを伺いました。

長谷川宮司

長谷川宮司:こちらが屋根の葺き替え工事を行った本殿です。屋根は檜の樹皮を用いた檜皮葺です。前回の葺き替えから40年が経過し、かなり劣化が進んでいました。
どうしようかと悩んでいた時に、京都市の補助金を知り活用させていただきました。

修繕直後のご本殿

ー具体的にはどのような劣化状況でしたか?

長谷川宮司:屋根全体に苔が生えていて、瓦も大きく破損していました。軒木も先端の木が腐って真っ黒になるなど、奥まで傷みが進行しボロボロになっていました。

屋根がそんな状態では雨漏りで建物内部も傷んでしまいます。
定期的な葺き替えが必要なんですが、特殊な工法のため葺き替えは高額となるため、手を付けられずにいました。

修繕前の屋根

ー材料の確保にも苦労されたと伺いました。

長谷川宮司:そうなんです。
全国的に檜皮の採取が難しい状況になっています。そこで、境内の檜を使えないか職人さんに相談してみたら、一部に活用して葺き替えを行うことになりました。

ー工事にはどのくらいの期間がかかりましたか?

長谷川宮司:基本的に1人の職人さんが作業をしてくださったので、約半年間かかりました。

75cmの長さに切った檜皮を、1cmずつずらしながら並べて葺き上げていくという、緻密で途方もない作業には感心するばかりでした。
完成直後、朝日に照らされて真っ白に輝く屋根を見たときは、もう本当に感動しましたね。

修繕中写真
修繕後写真

ー文化財の維持・継承には大変なご苦労があるんですね。

長谷川宮司:修繕のための大きな資金の獲得はとても困難です。今回の葺き替え事業は、市の支援制度の活用もありますが、総代さんや氏子さん、寄進者の皆様のおかげで、ようやく成り立ったものです。

もちろん費用を抑えようと思えば、檜皮葺をやめて銅板やガルバニウムの屋根に変えるなど、方法はいくらでもありますし、費用を抑えれば、他の修繕に充てることもできます。

しかし、人間の足元の土や石から作った瓦や鉄を利用して、神様の頭上を覆うのはしのびなく、人が踏まない檜皮のあたたかさがありがたいのです。

こうした考えの下、今まで何百人・何千人の方が関わって守り抜いてこられた歴史があります。そんな大切な檜皮葺の屋根を、あきらめずに次の世代に託したかったんです。

ー歴史の重みも、文化財の価値の一つですね。

長谷川宮司:屋根の素材が変わっても建物自体は存続するのでしょう。でも、文化財としての価値は全く異なります。
昔の方々が守ってきた伝統を受け継ぎ、檜皮葺の屋根を100年先、200年先の未来に残していくことの一助となることが私の務めだと思っています。

観光と文化財保護の良い関係を

京都には修理が必要な文化財はまだまだたくさんあります。
大型台風や集中豪雨など、近年の災害の激甚化で貴重な文化財が受ける被害の規模も大きくなっています。

一方で、少子高齢化などで檀家さんや氏子さんなど、文化財を維持管理していく担い手は減少するなど、維持や修理はますます困難になっています。

文化財は、長年にわたって先人たちが守り育ててきた、文化や技術のタイムカプセルです。一度失ってしまえば二度と取り戻すことはできません。
また、定期的な修理があるから、職人の技術も継承されます。

京都を訪れる観光客の皆さんにも、日本、そして世界の宝である京都の文化財の維持に参加していただく。『宿泊税』には、そういった役割もあります。

京都市はこれからも、所有者だけでなく、多くの方々と共に、貴重な文化財を未来につないでいきます。


京都市では、市民の皆様の暮らしと観光をつなぐポータルサイト
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市民の皆様が市内を観光・散策するのにおススメのサービスやイベント情報が盛りだくさん!

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📝産業観光局観光MICE推進室

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